この部屋には

 うんざりした表情で朝刊を閉じるとガラムに火を点ける。紫がかった煙を吐き出しながら、線香みたいな匂い! とつい先日言われたことを思い出し、すぐに揉み消す。消しながらα版をダウンロードしなかったことを少し悔やむ。彼はα版が既に有料だったという事実に気づいていない。よしんばダウンロードできたところで…と彼は思う。使い方が分からんけりゃ意味がない。逆に、使い方さえ知っていれば実際に使ってみる必要もないのだが…。
(スキャンの仕方を尋ねた途端同居人に張り倒される)



 気を取り直して青い空、白い雲。ポートロイヤル経由トゥルトゥーガ。白のデニムが新鮮! 夕日が雲をオレンジ色に染める。パンペロ時々ロンサカパ。 ラム酒があればそこが天国。



 ふーん結構タイヘンなんだ手伝ったげよかレポート/わーい。じゃ早速お願いしたいんだけどお…………(難しい話は聞こえない)/いきなり教科書渡されても/だってないと書けないでしょ/あっても書けない。資料がないと/…………とかのあたりだと…………とかに載ってるけど/とにかく一度見せてよそれ。



 伸びをしてから煙草をくわえたが、火を点けようとして躊躇。ぐるっと首をめぐらせても灰皿は見当たらず、煙草の匂いはしない。そのままベランダへ出ようとして止められる。ちょっと…人目とか世間体とか、いちおーはある訳だし。
 室内は比較的キレイに片付けられている。白っちい空間にソファーのマリンブルーがあっけらかんと切ない。息苦しくも暑苦しくもならない程度に観葉植物。エアプランツ。少しだけ南国的なユルさも心地いい。なのにこのお手上げ感はどうしたことか?
 この部屋には機械的な並列のタスクのみが順番待ちしている。やるべきこと否、やることがいろいろ。もちろん、義務ではないからやらなくてもいい。提出期限の迫ったレポートなど、どちらかと言えば面倒でつらいこともあるが同様あるいはそれ以上に楽しいこともアレとかアレとかアレとか…やることメニューは数珠つなぎで、サーブのタイミングが微妙に早すぎるレストランでコース料理を食べているかのように、薄く滑稽なオブセッションの膜に包まれる。
 冷蔵庫にはコロナビールが冷えている。最新型のゲーム機はインターフェイスの次元がまるで違う。ボブ・マーリィのCDだって何枚かは揃っている。しかし…要するに何か
 <やってないと間が持たない>。
 今、こうやってパインの樹の葉を弄びながら、根源的な欠落の正体をキャプテン・セレマは見た。あるいは見誤った。

 この部屋には文学がない!