美しき町

自分が好きな短編小説に、佐藤春夫*1の『美しき町』*2がある。ヴィジョンを拡げるだけ拡げて、仲間をほったらかしてさっさとトンズラしてしまう素敵なインチキ野郎の物語。水面を通り過ぎたる円錐のごとし。だ。何を唐突に? 思いつきは何時だって唐突に決まっている。ピュアかつ繊細な空想と魔術的なまでの大風呂敷の拡げっぷりに快哉を叫ぶとともに、はて真実て何なんだ? とか柄にもなく思ってしまうところがいい。ああ、真実子ちゃんに真理子ちゃん。

*1:そう言えばこの先生は稲垣足穂の師匠にあたる人で、一千一秒物語の出版が決まったとき『あら、びあんないと!』と若干スットンキョ風味なコピーの作者でもあるらしい。そんなエピソードのカケラが脳裏のどこかにあったせいか、昨夜RitzBarで「おばんざいをはじめる」と聞いた自分は心の中で『お、ばんざい!』と反応したのであるが声には出さずにおいた。たぶん正解。

*2:

佐藤春夫 (ちくま日本文学全集)

佐藤春夫 (ちくま日本文学全集)