肩が。と言うより体じゅうが凝っていて、一歩進むごとに音を立てんばかりだった。マサージでも行ってこよかな。お、いいですね俺可愛いコおる店知ってるんですよ。そやなしにィ、歓楽街のやなしにオフィス街のヤツ。なんやそりゃ残念、でもクイックマッサージなんてヤメといた方がいいっすよ、どーせならゆっくりサウナにでも入った後時間かけて…。
 本来ならそっちの方が望ましいぐらいのことは分かっている。が、今自分は一時間内になんとかしたいと考えている旨を伝えると。そりゃ残念(口ほどに残念そうでもなかったが)、また日を改めてサウナへ…。ご一緒するのは丁重にご遠慮させていただく。水虫を染された悲しい男の物語を聞かされた直後だったので。

 その男、素足でペタペタと家屋内を歩き回り、畳やらフローリングやら樹脂タイルやらの冷やこい感触を味わうのを無上の喜びとしていた。あるいは単に面倒くさがりなので室内履きが鬱陶しかった。ところが、水虫の発覚を機に家人より、本人の言う『地に足の着いた生活』を禁止されることとなる。禁止されたとは言え長年の習慣は急に改まるものではない。また裸足で歩いてる! ちょっとォ、それアタシのスリッパやん? あ、悪い悪い、と脱いだ途端にアルコールスプレーで消毒される。

 考えてみれば可哀相な人やなあ…。そう思いながら目薬を買いに薬局へ入った際、50%OFFの金赤文字に釣られてなぜかチューブ入りの水虫薬を買ってしまう。
 こんなもん誰がつけるんや…。自分は途方に暮れながら、いちびって某H堂宛にサンプル請求のハガキを出した 高校時代のある日を思い出す。
 そうか、そういうことか。 今も昔も、実用性の問題に関わらず、自分には不思議膏が必要らしい。