カリビアン・ムーン

海賊関係のエントリに続きカリビアンつながりとゆーことで、そう言や自分は「カリビアン・ムーン」というヒット曲を持つケビン・エアーズ*1が好きだった。別に過去形で言う必要もないけど、以前、プログレに詳しい人(某フラターじゃないです)にケビン・エアーズ好きですか? という質問を投げてみたところ、あんまし好きじゃないという答えをちょうだいしたことがあったので、そのへんから。

「面白いけどシリアスじゃない。イマイチ突っ込みが足らんとゆーか中途半端。だから、切実に聴きたいという気持ちになったことがない」
というのがその理由だった。その人の言わんとするところはその場で何となくわかったし、今もわかるけど。

「シリアスじゃない」「突っ込みが足りない」「中途半端」…なんだか自分のMAGICKとの係わり方、実践態度について指摘されているような気がしないでもないが、自分がケビン・エアーズの音楽が好きな理由(ま、そもそも「好き」に理由なんかいらんねんけどな)もまた、そのあたりにあるような気がする。これは何なんだ?

両手を挙げてワケわからないことを叫びながらあっちの世界に突入していく…というのが、自分が思い描くカッコイイ(つまりキチガイということ)ミュージシャンのイメージである。何と言うか、我ながらアホらしくなるほど典型的にフツー。
ところで、自分がケビン・エアーズにそれを感じるかと聞かれると、どうもそうではない。じゃ、何で好きなんだろう。ま、確かに軽く狂ってる感じはするけどね。
とか言いつつ、考えてみれば「切実に」ケビン・エアーズが聴きたくなったことなど、生まれてこのかたなかったんじゃないか。またいい加減なこと書いてるな。

自分はまた、
キチガイな音楽をやる人は、実際にどこかがキチガイである」
とも思っている。
凶悪な音を出し暴力的なパフォーマンスを行う人が、実際に会ってみるととても紳士的で優しい人だったなんて経験はあるが、それでもやっぱり、そういった人にしたところで必ずどこかしらが激しく狂っていて、手がつけられないキチガイであることには変わりはない。「紳士的」であると同時に「キチガイ」であることは充分可能だ。

「作品そのもの」と「それを生み出した人間」を一緒にしてはいけない。みたいなのは面倒くさいぐらいよく聞く話だが、自分にとってはやっぱり「この人にしてこの作品」なのだから、気にせず一緒くたにしてしまう。無理矢理切り離す必要など一切感じない。要は、「ヤク中だったから」という理由でジミヘンがクリエイトした音楽の価値を否定したり、「あの作家はアル中だからいくらいい話を書いていようと俺は認めない」みたいな、心の狭いつまらない状態にならなければいいだけの話だ。
プロの専業ミュージシャンなのだから(や、この定義は違う。聞くところによると彼はシーフード・レストランの経営者でもあるらしい)音楽で食えないというのは困るけど、ケビン・エアーズには、むちゃくちゃ頑張ってヒットを連発して…みたいなギラギラしたところがない。
誰も聴いてくれなくてもかまわないから、自分は自分にとってリアルな、追求したい表現のみを追求する…みたいな、シリアスと言うか求道的凄みも感じない。むしろ、ワケわからないパフォーマンスに辟易した観客が席を立とうとした瞬間
「あ、すみません。いま楽しいのやりますから」
とか言って「カリビアン・ムーン」を歌いだしそうな、そんなテキトー感に富むアーティストだ。テキトーに頑張って、でもうまくいってイビサで悠々自適。素敵じゃねーの。

ケビン・エアーズ(及び彼の音楽)には、「あっちの世界に突入していく」ようなわかりやすい無謀なキチガイ感が乏しい。むしろ、
「これ以上行くとヤバそうだからこのへんで止めとかない?」
的な、ナチュラルな小ずるさみたいなものを感じる。「カリビアン・ムーン」は、まさにそんな瞬間の気分にフィットするテーマソングであると言えそう。

面倒くさいから断言してしまう。
これは
<継続は力なり>
とゆー
<戦略>
だ。
玉砕とゆーか、何かを掴んで、ただし、掴んだ瞬間おしまい…みたいな勝負に出るのか、全体の輪郭が自ずと浮かび上がってくるまでやり続けるのか。

シリアスさに欠ける音楽と言うと、自分がよく聞くものですぐ思いつくのはマーク・ボランフランス・ギャルで、どちらも体力的に疲れている時に聴くと最高に気持ちいい。つまり「癒し系」。
イビサケビン・エアーズの音楽は、自分にとっては、癒し系であるとは言えない。
お気楽という共通点はあるが、マーク・ボランフランス・ギャルには、逆にとてつもなく「必死」なところも感じる。
これは、<キャンプ>と<キッチュ>の違いか?
http://d.hatena.ne.jp/FraterCS/20070116
もちろん、そうは思わない。理由は、
「ケビン・エアーズが好きだから」

*1:カンタベリー生まれのイギリス人。ハイスクールをドロップアウト「ワイルド・フラワーズ」に参加。1966年元ワイルド・フラワーズのロバート・ワイアット、デヴィッド・アレンらと「ソフトマシーン」を結成し、68年1stアルバムリリース直前(直後?)に脱退してスペインのイビサ島へ移住。原語発音的には「アイアーズ」の方が近いみたいね