そっくり豆

 トンテンカントンテンカンと騒々しく響き渡るノイズは、ライブではなく準備中の音。客が入ってない分反響は余計に盛大。ただいま立て込んでおりまして。ええ、建て込み中で。携帯電話に向かって怒鳴りながら、男が片目をつむって見せる。男の口が大げさなモーションでお/や/く/そ/くと順番に形を作っていく。
 「オヤクソクオヤクソク」
 傍らに立つ女がニヤニヤしながら声に出してリピート。亜細亜産業大海賊博会場、開催前夜の突貫工事中。 
 SOMY,TOSHIBU…いくつかのブースの前を通り過ぎると、二人はLEDの青い光で照らし出されたパネルの前に立つ。男が、天津甘栗の形をしたピーナッツ大の豆粒を2つ、女の口腔内へ滑り込ませる。
 「実は原稿を忘れて来てしまいました。もう手配のしようがない」
 「あなたはそこに何と書いたのか」
 「確かこの場所のパネルには……つめいを……た」
 「今のあなたの話は、ここに書いてある内容と似ています」
 「本当に?」
 「似ています」
 「あなたはそれで大丈夫だと思うか」
 「そっくり」
 「それはOKという意味か」
 「くりふたつということ。あなた飲茶にしないか」






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