横綱と宇宙パワーあるいはフーゾク以外のボディタッチ
耳かき店の登場によって、これまでのオタクカルチャーにおいて希薄だったボディタッチの要素が大きくクローズアップされることとなり、同時に、フィジカルの問題はフィジカルの領域のみにおさまらず、メンタルの問題もまたしかりという当たり前の事実が白日の下に晒された。日本文化は明らかに過渡期を迎えている。きっかけとなった不幸な事件の犠牲者*1への追悼の意も込めつつ、何回かに渡ってそのへんを考えていきたい、と、土星の輪が消失する日に思った。まあ、私の考えることだから、浅さの方はご容赦くださいとゆーことで。
「横綱貴乃花洗脳疑惑」が報道されたのは、1998年のこと。当時の横綱貴乃花が、掛かりつけの整体師から「洗脳されていた」というものだが、さっぱり全体像が見えない上に何やら煮え切らない、もっと言えばどーでもいい話だった。早い話、二子山部屋をめぐるお家騒動的トラブルが数々のゴシップネタを生み、当時の親方とその周辺が「貴の洗脳」のせいにして事態の収束を図ろうとした…といったところか。横綱の自室に「宇宙パワー」と書かれた貼紙があったという報道には素直に吹いたが、どうも件の整体師が話した内容というのは、メンタルとフィジカルを結びつけ、宇宙に遍在するエネルギーの流れといった、どうと言うことのないごく当たり前のものだったのではないかと推測される。その程度のことで洗脳なんて言われたんじゃかなわんなと思うのだが、まあ、横綱にとって整体師が、体調以外のあれこれに関しても、良き相談相手もしくは教師のような存在だったのは事実らしい。
自分にとって気持ち悪かったのは、横綱でも整体師でも親方でも女将さんでもない。たとえば「マッサージ=筋肉の問題」のように、豊な広がりを持つあらゆるものを、限定的な領域に押しとどめ矮小化してしまう社気的意志のごときものの存在。「マッサージ」が「整体」となると、限定的領域は流石にもう少し広くならざるを得ないが、それでも、何としてもフィジカルの範囲内の話ですということにしよう、一線を越えてしまう者は絶対に許さないという意志。そんな単純に区分けできるもんじゃないことは、少なくとも施術者にとっては昔から常識だった筈だが、ともかくそーゆーことにしておきたかったようだ。誰が? 誰がとゆーか…体制側による政治的コントロールといったバロウズっぽい話ではなく*2、国民の総意だかなんだか分からないが「何となくそーゆー流れ」になっていた。地下鉄サリン事件(95年)の記憶も生々しかったであろう折、「宗教的」なるものへの過剰な拒絶反応が露骨に表出した結果とも言える。
その後、スピリチュアル・ブームなんかもあって、民間療法の伝統が細っていく一方で、エサレンマッサージその他ボディタッチを伴う多様なニューエイジ系ヒーリングワークの存在が知られるようになり、施術者も利用者も増加の一途を辿っている*3ことは周知の事実である。保険は利かんけど。
近世のある時期より、長らく表立って「全体性」を志向することができずにいた、即ち政治的/宗教的ホーケイ状態にあった日本文化は、今後、一皮剥けようとする方向へと必然的に変質していくだろう。
参考)あんまり適切なのが見つかりませんでした。
貴乃花とToshiの洗脳騒動
http://www.seraphicedge.com/cheap/philo/miya09_nazeseko.html
9/26のインサイド98(貴乃花騒動について)
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/5272/1998/26sep.html
謎の整体師・富田氏が語る 貴は一人でやり抜くと・・・
http://samech.web.fc2.com/dinform/sports/sp050625.html
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