妄想のオール水化住宅

 ときどき夢の中で水=光の中を泳いでいる。水が光を受けて輝いているとかではなく、水=光。自ら発光している。否、発光していると言うよりは光そのもの。だからやっぱり水=光としか言いようがない。水=光はひんやりと冷たく、軽く、どこまでも清澄であり、まぶしさとは無縁のやわらかな明るさをたたえながら、さらさらとゆっくり流れている。
 近くに滝壺でもあるのか、涼しく心地いいホワイトノイズのような水音(=光音)が聴こえる。サラスヴァティの歌声だろうか? 自分は泳ぐ。基本は平泳ぎだが、ときどきクロールをしてみる。顔を浸したかったのだ。水=光の底はさらさらの否さらさらしていると思われる白砂だ。そう遠からぬ距離を、巫女と思しき誰かが泳いでいる。話しかけると、声ではなく光が放たれたことに自分で驚く。
 すぐに相手の明るい光が返って来る。何だか嬉しくて背泳ぎなどしてみる。



 2ちゃんねるオール電化住宅関連スレを覗くと、ガス屋VS電気屋もしくはそのいずれかに直接の利害関係を持つと思われる者たちによる中傷合戦が騒々しい。このように、誰もが利害関係の海を泳いでいる訳だが、経済面の利害関係しか見えなくなっているのは残念。
 「所詮はオールガス化住宅なんて無理だろw」
などという書き込みがある。そうかな? 照明器具をガス灯に、PCをガスマックに、TVを地デジ対応薄型ガステレビに買い換えれば意外と簡単にできそうだ。と思った瞬間つまらなくなり、自分の関心は「オール水化住宅」へと移った。火を使わないから安全だし、電磁波の心配もない。水で魚を焼くとか新作公案みたいで絶妙にMAGICKALだ。難点は、何をしてもすぐびしょ濡れになってしまうこと。また、水=光ではないから夜間や雨の日には照明が必要になること、水チェアに腰掛けているとき以外はリビングでも始終立ち泳ぎしている必要があることだ。とまれ一つずつ片付けていくしか手はない訳で、まずは照明から。ホームセンターも家電量販店も、さすがに水灯は扱ってないだろうな。自分は、心斎橋の某インテリアショップを目指す。



 商談の最中、いきなり初老の経理部長が眉毛を八の字にして飛び込んで来た。
 「社長、たいへんです。わが社の保有株式が全て一夜にして水化してしまいました…」
 ね、オール水化にして良かった!





 隈研吾「水/ガラス」http://www.so-net.ne.jp/tokyotrash/_media/kuma/05.html

 この透明感、流るる水のごとし。雨の日には、空や海との境界がぼけてさらに美しいという。本当は、最初から何もないのがいちばん美しかったのかも知れない。何か19世紀の「純粋絵画」みたいなオチで申し訳ない。